三月三十一日のこと

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 光も昔のことをよく覚えていて、大きなカエルを頭の上に乗せられて号泣した事件を持ち出し「小さいカエルもダメになった」とトラウマを告白すれば、圭介は過去のいたずらを反省していた。  不思議なことに、光の記憶は私達と同様かそれ以上にしっかりしていて、私のことだけがすっぽりと抜け落ちていた。 「頭でもうったのか? ドラマとか漫画であるよな、一番大切な人だけ忘れる記憶喪失ってやつだな」  草太がそんなことを言いはじめたから、私は飲んでいたウーロン茶を気管の方に入れてしまい、せき込んだ。草太は昔から空気を読まない男だったけれど、麻衣の少女漫画を愛読してきたから、たまにロマンチストになる。「一番大切な人」とか、どの口が言う。  ちらりと光の様子を伺うと、予想通りどう反応していいのかわからないと困惑していた。  そして、草太の口から出てきた次の言葉は、光を完全に固まらせた。 「前に電話かけてきた時だって覚えてたし。遥は元気かって、真っ先に聞いてただろ?」  何それ? 聞いてない。驚き周りを見回すと、圭介も美里も同じような反応している。そして麻衣の顔はどんどん険しくなっていった。 「草太にだけ? ズルイ!! みんな光からの連絡待ってたのに! 何の話しをしたの? 私にも秘密ってどういうこと??」    麻衣は双子の草太には手厳しい。たじろぐ草太は、乾いた笑いでごまかした。     
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