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四月二日のこと
翌日、東京に向かう特急列車の中では、私と光はなぜか隣同士に座っていた。
もちろん、光も東京に帰るのだから列車が同じになるのは仕方がない。でも、光は私のことを覚えていないのだから、彼にとって私は赤の他人。長い時間一緒にいて楽しい相手ではないと思う。私も二人っきりで何を話していいのかまったくわからない。
だから乗り継ぎ前に一回、そしてこの特急に自由席を購入してから一回、光に「じゃあね」と言った。なるべく棘を含まないようにさりげなく。でも「またね」と言えないのは本当は苦しかった。光はのそたびに「ああ」とか「うん」とか返事をするのに、私の後をぴったりと付いてくる。
ずっと、何か言いたそうにしているのに、自分からは話そうとしない。ほぼ会話らしい会話をしないまま、列車は終着駅までたどり着いた。
「光は、どこに住んでるの?」
降りる直前にそう尋ねると、私の住んでる家とは違う路線の駅の名前を口にした。
「じゃあ、ここでお別れだね」
「送っていくよ」
「いいよ。方向違うし。まだそんなに遅くないから」
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