三月三十一日のこと

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「……えっと、タクシーは乗り入れている会社がないんです。個人でやってるおじさんがいるはずだから、その人に連絡するんですけど……、駅員さんに聞けば番号がわかるかもしれません」  ちょうどその時、私達の前に小さな赤い車が停車した。助手席側の窓が開き、運転手の美里が席を飛び越えて、元気に手を振ってくる。 「遥! おかえり。待たせてごめんね」  そういって謝まってくる美里の視線は、すぐに私から横に外れていき、何かに気付いたのかぱっと瞳を見開いた。 「って、え? もしかして光??」  彼の方もはっとして固まった。  美里は慌てて車から降りて、私達の方に駆け寄ってくる。 「もしかして、美里さ……ミサちゃん?」 「やだ、ほんとうに光なの? 懐かしい。光ってば顔以外まるで別人! すっかり男らしくなっちゃって。でもよかった! ずっと音信不通だったから来てくれないのかと思ってたよ。遥とは偶然一緒になったの?」 「遥?」 「うん、そこにいる遥。昔一緒に遊んで、タイムカプセル埋めた仲間じゃない」  彼、光はようやく私をしっかりと見た。でも、その瞳には困惑の色が浮かんでいる。 「ごめん、ちょっと記憶が曖昧で……」 「え、じゃあ、草太や麻衣は?」  美里が訪ねると、光はすぐに頷く。 「双子の兄妹だよね? ソウちゃんとマイちゃん」 「圭介は?」 「わかる。足の速いケイちゃん」  彼は迷わず答えていった。     
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