三月三十一日のこと

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 この間合いは、嘘だとすぐにわかった。私の恨みがましい視線を感じたのか、光が振り返り謝ってきた。 「ごめん」  また本気で謝られてしまい、「いいよ、別に」としか答えることができない。  美里の努力むなしく、車内が再び重くるしくなってしまいそうだったけれど、ちょうど車は目的の田子山地区に入り、私はそのまま美里の家へ、光は以前住んでいた家に一度行くといい、別れることになった。  その時美里と光は、この後の連絡を取り合うために携帯の番号を交換していたのだけれど、私はわざと距離を置いて、興味のないふりをした。  光が引っ越してしまった後、どれだけ連絡先を知りたくても叶わなかった。けど今は、その気になれば気軽に知ることができる。時は流れ、変わっていくものなのだと実感させられた。  光は小学校五年生のある日、お母さんと町にやってきた。もともとおばあちゃんの家だった場所に、母子二人で住みはじめた。東京にお父さんとお兄さんがいて、別々に暮らしていると寂しそうに教えてくれた。  その時はよくわからなかったけど、多分、光の両親は離婚すれすれの別居をしていたのだと思う。       
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