三月三十一日のこと

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三月三十一日のこと

 その列車は、各駅停車で私を過去へといざなう。  大学三年生になる年の春休み、私は久しぶりに中学までをすごした生まれ故郷を目指していた。  特急列車からローカル線に乗り継ぎ一時間、車窓から眺める景色は、どんどんと早緑の色が増えていき、懐かしい風景に心躍らせた。  高校進学に合わせて家族で引っ越してしまったので、もう実家と呼べる場所はないけれど、当時一緒にすごした幼馴染は一人を除いて変わらずにそこにいるのだという。  ――ねぇ、タイムカプセルのこと覚えてる?  きっかけは幼馴染の一人、美里(みさと)からの一本の電話だった。  小学校六年生の夏休みに、みんなで埋めたタイムカプセル。大人になったら掘り起こそうと約束をした。 「大人って何歳?」    あの時そう言ったのは、リーダー格の草太(そうた)だった。 「二十歳じゃない?」  草太の双子の片割れ、麻衣(まい)が答える。 「じゃあ、八年後の今日だ」  草太がさっさと決めてしまうので、私は慌てた。それを察したしっかり者の美里がすぐにとめてくれる。 「まって、まって。八年後の夏じゃ、(はるか)はまだ十九だよ」 「遥の誕生日って四月一日だもんな。エイプリールフール!」     
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