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えそらごと
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あの桜の木の下に、ぼくらは「未来」を埋めた。
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2006年3月20日(月)8時20分
一瀬中学校 2年3組 教室内
「おはよー」
「今日なんか暑くね?」
「授業だりー」
軽い言葉が飛び交う教室で、大月真は窓際の自分の席に座り、1人読書をしていた。先日図書館で借りたミステリー小説の犯人がもう少しでわかりそうだ。邪魔が入らないうちに本を読みきってしまいたい。紙面の文字を追うスピードが自然と早くなる。
「まっこちゃーん!」
8時25分。ホームルームの5分前、真の名前を大きな声で呼びながら、ドカッと前の席の椅子に座ったのは、同じクラスの飯野和夫だった。真が顔を上げると、坊主頭の人の良さそうな笑顔が目に入った。180センチはあるだろうか、中学生とは思えないがっちりした体格をした和夫は野球部に所属しており、エースピッチャーとして活躍していた。朝練のためか、額にはうっすらと汗が浮かび、息も少しあがっているようだった。
「まこちゃーん、今日の数学もオナシャース!」
真はとうとう犯人まで辿り着かなかった小説を机の中にしまうと、ペコリと頭を下げて両手を前に突き出している和夫に、自分のノートを渡した。
「はい」
「あざーす!」
和夫は真のノートを受け取るとすぐにクルリと前を向き、答えを写しにかかった。
「ホームルーム始めるぞー!」
8時35分、担任の石ノ森がいつものように寝癖のついた白髪頭で教室に入ってくる。教室に散らばっていた生徒たちがのろのろと自分の席に戻っていく。何の変哲もない、いつもの日常。
「えー今週末から春休みに入るわけだが、進路用紙をまだ提出してない人は今日か明日には提出するように。あと……」
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