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佐々木君が、赤らんだ顔を左右に大きく振る。
「山崎さんと初めて話したとき、すごく楽しかった。女の子でアイドルについて、あんなに話せる人、初めてだったから」
佐々木君はそこで一度、言葉を切った。
「それに、すごく、可愛いなって、思った」
一言、一言、噛みしめるように、佐々木君は言った。昨日までの彼からは、想像できない言葉だ。自分が可愛いと言われたことよりも、アイドル以外の女性を、彼が褒めたことが、信じがたかった。しかし、彼が冗談を言っているようには、到底、思えなかった。
「僕は、アイドルヲタクだし、格好悪いし、気の利いたことも言えない。でも、山崎さんのことは、本当に、好きです。良かったら、付き合って下さい!」
佐々木君の顔は、再び赤く染まっていた。縁なしの眼鏡は、汗で鼻からずり落ち、膝の上で握られた拳には、青い血管が浮き上がっている。彼の緊張が最高潮に達していることは、誰の目から見ても明らかだった。
佐々木君の姿は、お世辞にも格好いい、とは言えない。何事もスマートにこなすのが良いとされる昨今、それは、あまりにも必死過ぎる。自分を良くみせることに敏感な人々なら、彼を見て嘲笑するかもしれない。彼らはとかく、周りの目を気にするものだ。
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