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しかし、佐々木君はそうした周囲の視線など全く、気にしていないようだった。その姿からは、清々しささえ感じられる。 佐々木君のことを、恋愛対象として見たことはなかった。それは今も、変わらない。しかし、私の中で「何か」が動いたのは、確かだった。その「何か」は、小さな音を立てて、揺れた。振動で、「何か」の周りを覆っていた薄い膜も、かすかに震えた。 それは、今まで経験したことのない、感覚だった。 私は、佐々木君の目を見た。その目には、私だけが映っている。 「いいよ」  言ってから、しまったと思った。自分でも、自分の言ったことに動揺している。しかし、もう、引き返すことはできない。 私は恐る恐る、佐々木君の反応を待った。 彼は微動だにせず、こちらを見つめていた。ゆっくりと瞬きをして、口を開く。しかし、彼の口はパクパクと動くだけで、声は出ていなかった。その姿は、自宅にあるカエルのパペットそっくりだ。 大きな目、上下に開かれたままの口、ひょろひょろと長い手足。どこか間の抜けた出で立ちは、私の心を、いつも和ませてくれる。それが思い出されて、私は、つい笑ってしまった。 笑い声につられて、佐々木君の表情に笑顔が戻ってきた。  「…いいの?」  彼の声は、掠れていた。 私は、ゆっくり頷いた。ここまできたら、もう、覚悟を決めるしかない。     
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