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私にとって、条件を出す理由は、明快だった。しかし、それを説明するのは、困難だったのだ。説明したところで、理解してもらえない可能性があったし、何より、怖かった。自分の秘密をさらけ出すことで、相手に拒否されることを、私は何よりも、恐れていた。そのため、今まで一度も、理由を話したことは、なかった。  「私に、弟がいるのは話したよね?」  佐々木君とはサークルで長く話すうち、家族や友人のことなども、話していた。主にその手の話題は私が話すことが多く、佐々木君は聞き役であった。彼はなかなか聞き上手だったので、普段は人の話を聞くことが多い私も、話しやすかったのだ。  「うん。仲の良い弟さんが、いるって話だよね。確か、中学1年生の」  私は軽く頷くと、視線を机の上に移した。どう、伝えるべきだろうか。どこまでを、彼に話しても良いのだろうか。そうした疑問が、私の頭の中を駆け巡った。  私は、再び、佐々木君を見た。彼の目は、3分前と同じように、私だけを映している。そう、私だけを。  再び、私の中で「何か」が、動いた。変な話だが、それは確信を持って、私に頷きかけたように思えたのだ。  私は、覚悟を決めた。
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