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私が家に帰ると、玄関にはすでに、朝斗の靴があった。青い紐が編み込まれたスニーカーは、某有名メーカーの新作である。中学1年生ながら、ファッションにうるさい弟が、入学祝いとして両親に買わせたものだ。スニーカーには、まだ汚れがほとんどついておらず、きれいなままだった。  心の中で、私は軽く舌打ちをした。この時間、いつもなら、朝斗は部活をしているはずだ。それが今日に限って、部活が休みなのか、家に居るようである。  私は出来る限り、音を立てずに玄関の戸を閉めた。リビングから、テレビの音が漏れている。おそらく、朝斗が居るのだろう。弟と顔を合わせないためには、彼に気付かれる前に、自分の部屋に入らなければいけない。  私は、素早く階段に向かった。片方の足を、階段に掛ける。そのとき、背後に気配を感じた。あっ、と思ったときには、私は柔らかいものに包まれていた。  「お帰り、姉ちゃん」  耳元で囁かれた声は、まだ声変わりをしていない、少年のものだった。しかし、妙に色っぽいのは、言い方の為だろうか。それとも、体勢の為だろうか。傍から見たら、私達は、恋人同士がじゃれ合っているようにしか、見えないだろう。     
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