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「ただいま、朝斗。今日は、早いんだね」
「うん。部活が休みだったんだ」
そう言って、朝斗は、私の背中に顔を押し付けた。
朝斗は今年、13歳だ。こんな風に姉に甘える年齢は、とっくに過ぎている。しかし、おかしいとは思っていても、毎日の習慣として、私は朝斗の行為を受け入れてしまっていた。
「お姉ちゃん、部屋に荷物を置いて来るから」
いつの間にか腰に回されていた腕を、はがそうとしたが、それはより強く私の身体に絡みついた。
「痛っ」
悲鳴が上がり、腕の力がゆるむ。その隙を見逃さず、私は身体を滑らせるようにして朝斗から離れた。
「姉ちゃん、痛いよ。つねることないじゃん」
私は朝斗の非難に答えることなく、階段をずんずん上がっていった。
部屋に入り、すぐにドアを閉める。扉にもたれかかったまま、深く息をついた。
大丈夫、気付かれていない。おかしいところは、何もなかったはずだ。
私は荷物を机に置いて、ベッドに横になった。
枕元には、カエルのパペットが、とぼけた顔をして座っている。私は、先程の出来事を思い出して、自然に顔が緩むのを感じた。
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