プロローグ

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 小学校に入ると、クラスの人数も増え、自然人付き合いも多くなった。しかし、本当に心を許せるのは、本だけだったと思う。それは、今でもほとんど変わっていない。勉強も運動もそこそこ出来たから、クラスでも少し特別な存在になった。話す子がいないわけではないが、つかず離れずの状態だ。孤立している、とは違う。私の周りにだけ、薄い薄い膜がめぐらされているようだった。その膜は半透明で、中からも外からも覗くことはできるが、決して他人がその膜を破って入ってくることはなかった。  弟が生まれる前、周りの大人には「遥ちゃん、弟ができて良いねえ」「遥ちゃんは良いお姉さんになるよ」、と言われていた。言葉にこそ出さなかったが、自分に弟ができるということが、私にはよく分からなかった。弟、という存在がどういうものか、理解できなかったのだ。当然、なぜ弟ができることが良いのかも、理解できなかった。  あるとき、同級生の女の子に聞いてみたことがある。その子は、妹が生まれるのだと、嬉しそうにクラスで話をしていた。「どうしてそんなに嬉しいのか」、と私が尋ねたら、その子は変なものでも見るような顔をした。それから、「遥ちゃんはツメタイヒトね」と言って、去って行ったのだ。  当時の私は幼くて、彼女の言葉の意味を、ちゃんと理解してはいなかった。しかし、同級生の気分を害してしまったのだ、ということは感じていた。今、思えば彼女もテレビや映画でそうしたセリフを聞いて、言ってみたかっただけかもしれない。「ツメタイヒトね」という言葉は、当時の私が聞いたことのない響きを持っていた。  そのためか、私は20歳になった今でも、その言葉とそれを言われた出来事を、鮮明に覚えている。     
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