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私が小学校から戻って部屋で本を読んでいたとき、病院から電話があった。お母さんが産気づいたから、早く病院に来てほしい。電話口で、女の人が早口で言った。その後すぐに、私は父の車に乗せられで病院に向かった。道が渋滞していたから、病院に着いた頃にはすでに辺りが真っ暗だった。
出産の間、私は部屋の外で父と一緒にソファに座っていた。そのうちに、母方の祖母と祖父が駆けつけ、父方の祖父母も来た。「どうなの?」「いや、まだ」。そんな会話を聞きながら、私はただ、出産が早く終わることを祈っていた。待っている間中、暇をもてあそんだ祖父母たちがひっきりなしに話し掛けてきて、うんざりしていたのだ。
出産は数時間で終わった。安産だったらしい。祖父母たちが一斉に、母と新しい孫めがけて走って行くのを、私は安堵のため息で見送っていた。
生まれたての赤ん坊は顔がしわくちゃで、体には皮膚の残骸のような白い物体がそこかしこに付いていた。お世辞にも、可愛いとは言えない。同じ人間とも、あまり思えなかった。
「朝斗って言うのよ」
母がベッドに横たわったままの姿勢で、言った。生まれたばかりの我が子を見つめる目は、とても優しい。朝斗は父の腕に抱きかかえられ、静かに眠っていた。
「あさと」
私は恐る恐る、弟の名前を呼んだ。
「あさと」
父の腕の中を覗き込んだとき、ちょうど目を開いたばかりの朝斗と目が合った。
「おはよう」
朝斗が、微かに笑った。
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