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 昼過ぎ、私達は駅で待ち合わせをした。私は最初、自分の方が先に着いたと思っていたが、そうではなかった。私が気付かなかっただけなのだ。なぜなら、待ち合わせ場所にいた佐々木君は、いつもと全く違う雰囲気だったからだ。  一言で言うと、佐々木君はオシャレをしていた。前述したように、彼はアイドルにしか興味がない。そのため、オシャレという言葉から一番遠い存在だった。色違いのボーダーの服を、日替わりで着てくるくらいの男なのだ。  それが、今日は白いシャツにベージュのパンツを履いている。シンプルだが、清潔感のある服装だ。女性誌で、「彼氏に着てほしい服トップ10」に選ばれそうなコーディネイトである。靴やカバンも、真新しい光を放っていた。  ただ、難点なのは髪型だ。佐々木君の髪は、ワックスで塗り固められ、不自然なほど上向きに立っている。一目見ただけで、普段、ワックスを使わないのだということが、分かってしまうのだ。おしい、と思わずにはいられない。     
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