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保健室の扉は開けっぱなしになっており、中が覗けた。誰もいない。
「いるはずないか……」
私が小さな声で呟いたとき、後ろから「どうしました?」と話しかけられた。
私は咄嗟に振り向く。
そこには養護教諭が立っていた。
彼のことはよく覚えているが、正直養護教諭のことは覚えておらず、なんだか今日初めて会った気分だった。
彼女は母親くらいの年齢に見える。
赤い眼鏡の奥はやや鋭く、厳しそう。
体調も悪くないのに、保健室を覗いたことをどう説明すればいいのか悩んだ。
「あ……」
そのため、言葉が続かない。
「あなた、この間の生徒ね。一年生の柊さんだったわよね?」
「あ、はい」
「もういいの?」
「はい。昨日まで休みましたが、すっかり元気です」
彼女は私を覚えてくれていた。
「それはよかったです。今日はどうしましたか?もしかして忘れ物?」
私は忘れ物なんてしてないので、左右に首を振った。
すると、先生は不思議そうな顔をする。
「あ、あの……この前私をここへ連れてきてくれた先生は何年生の先生ですか?お礼を言いたいんです」
もう下手にごまかせない。
私は彼のことを教えてもらおうと思い言った。
送ってもらったことは彼女も知っているため、きっと変には思われないはず。
しかし、口にしたあと職員室に行ったほうが早かったかもしれない、と思うのだ。
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