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聞く勇気が出ず、ただ重ねられた手に力を入れた。
だが亮介さんの手は離れることはなく、重ねられた手を意識しすぎて会話に集中できなかった。
それでも降車した後も亮介さんの手は離れなかった。
重ねられただけでなく、今度は優しく掴まれる。
私はもう子供ではない。
亮介さんが、私に対して部下以上の気持ちがあることはわかる。
それが本気のものなのかは別として……
亮介さんは駅の側の細長いビルの地下にあるバーへ誘った。
バーは薄暗いが、バックバーが夜のネオンの光のように明るく色づいて雰囲気があった。
シェーカーを振る、整えられた口ひげのよく似合う男性のバーテンダーと目が合う。
歳は40前半くらいだろうか。
バーテンダーは、私たちを「いらっしゃいませ」と、迎えた。
バーはとても狭くカウンター席とテーブル席が二席あるだけ。
テーブル席は埋まっていたため、私たちはカウンター席の真ん中に座った。
亮介さんの手が離れる。
ホッとしたような、その逆のような変な気分。
それでも私はバーのカウンター席に座るのは初めてのことで、少し胸がドキドキしていた。
「佐々原さんは好きなカクテルはある?」
「特別好き、というものはないですけど、何でも飲めます。池上さんは何を飲まれるのですか?」
「俺はカミカゼをよく飲むよ」
「カミカゼ?」
まるで風の種類のような名前に首を傾げると、亮介さんが「ウォッカにライムジュースとキュラソーを入れたものだよ」と教えてくれた。
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