乾いた心

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佐々原(ささはら)さん、お疲れさま」 亮介さんが、私の肩にぽんと手を置き隣に腰をおろした。 「池上(いけがみ)さん、お疲れさまです」 そこはつい先ほどまで、一般職である私より二年先輩である長嶺芳佳(ながみねよしか)が座っていた。 だが長嶺さんは係長にお酌をしにいってから、捕まり戻ってこないため、空席だった。 「飲んでる?」 亮介さんは並びのよい歯を見せつけるように、口の端を両方に広げた。 色黒だから、歯の白さが目立つ。 それでも、私は彼の笑顔が好きだった。 「はい。いただいてます」 亮介さんは私のグラスに視線を向ける。グラスには半分ほどのビールが入っている。 亮介さんは一番彼から近い瓶ビールを手にし、私のグラスに注ぎ始めた。 だが注ぎ過ぎて泡が溢れそうになる。 内心“溢れる”と叫んでいたが、私はぼんやりとしており動けずにいると、亮介さんが「ごめん」と言って、グラスに口をつけた。 間接キス。彼を好きな私はすぐに意識した。 「ごめんね、飲んじゃったよ」 しかし亮介さんは溢れないくらい飲むと、少しも動揺を見せずに笑った。 私はドキドキしていたものの「白髭ができてます」と教えた。 「え?まじ?」 「はい」 咄嗟に亮介さんの唇の上におしぼりを持った手を伸ばした。 すると、亮介さんに手首を掴まれる。 手が重なったまま泡を拭くと、亮介さんは何でもなさそうな顔で「サンキュ」と言った。
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