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「え……」
驚きの呟きが漏れた時、亮介さんの唇が離れた。
「ね?」
彼の口元は私を誘惑するように穏やかに緩む。
まるでつられるように、首を縦に振った。
一次会がお開きになったのは、それから一時間後。時刻は22時前だ。
職場の飲み会に参加するのは今夜で二度目。一度目は私の歓迎会だった。
その時は、私が主役だったため、参加の有無を問われる前に、上司である鯖坂支店長に二次会のカラオケバーに連れていかれた。
支店長は陽気な人柄で、飲むことが好きだ。私は今夜もなんとなくだが、誘われる気がしていた。
居酒屋を出て、職員皆と集まった時、私は亮介さんの誘いを守れるか、ドキドキしていた。
するとやはり、という感じで支店長に「佐々原君、次行くぞ」と誘われた。
私は心で“どうしよう”と迷う。
すると、亮介さんが後ろから「支店長、佐々原さん気分が優れないみたいです」と言った。
私は少しも気分は悪くない。
すぐに亮介さんの二人きりになるいいわけ、だと気がつく。
「本当か?大丈夫かね?」
「は、はい……」
嘘をついているため、申し訳なさが胸に広がる。
それと同時にバレたらどうしよう、という思いが私を苦しくさせる。
「たしかに、顔色が悪いような……」
夜の色で頬の様子がたしかに映らないのかもしれない。
すると「支店長、僕が彼女を送りますよ」と、亮介さんが言った。
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