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亮介さんの言い方は、下心がゼロという感じのさりげないものだった。
「そうか、池上君なら安心だな。ちゃんと送り届けてあげなさい」
亮介さんは常に周りに目を向け、変化を察知してくれるタイプ。
気にかけることが自然とでき、仕事もできるため、支店長から厚い信頼を寄せられている。
だから支店長の言葉には納得する。
亮介さんが「はい」と言うと、支店長が「二人とも気を付けて帰るんだぞ」と言って、タクシー代に、と亮介さんにお金を握らせた。
「支店長……」
心が痛い。
「気を付けて帰るんだぞ。また来週な」
「ありがとうございます。はい」
亮介さんは深く頭を下げた。
私は無言で頭を下げる。
支店長は穏やかに笑うと、手をあげて二次会組の輪に入っていった。
すると支店長と入れ替わるように長嶺さんがこちらにやってきそうな気配を感じた。
きっと、何か言われるはず。
長嶺さんに嘘をつきとおせる気がしない。
動揺してしまう私だが、長嶺さんが来る前に、亮介さんに「行くよ」と言われ、肩をぽんと叩かれた。
亮介さんは輪に背を向けるから、私も真似をした。
長嶺さんに心で二度目の“ごめんなさい”を言いながら。
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