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亮介さんは道路脇に停まっているタクシーに私を乗せると、彼も後から乗り込んだ。
私はこっそり、後ろ窓から外を覗いた。
少し先の後方には、まだ職場の皆が集まっているのが見える。
先ほどこちらを気にしていた長嶺さんの姿は、私の場所から見えず、少しホッとする。
だが、まだ罪悪感でいっぱい。
「どちらまで行きますか?」
タクシーの運転手の声で、私は顔を前へ向けた。
防護盤越しに運転手と、目が一瞬合う。
亮介さんは「八王子駅まで」と答えた。
偶然にも、私が毎日乗り降りする駅だった。
思わず「え、どうして?」と尋ねてしまう。
「いいバーがあるんだ。二次会、するんでしょ?」
ただの偶然だったよう。
亮介さんが首を少しだけ横に傾けた。
私は二人きりの二次会を思いだし、顔を赤くする。
つい、今まで心苦しさを持っていたというのに。
一次会のあった居酒屋は、勤め先の立川支店から徒歩五分程度の場所にあった。
立川から八王子まで、車では30分ほどのはず。
二人きりの車内。静かな空気が少しの間流れる。
私からは想い人である亮介さんに話題を振れないでいる。
どうしてよいのかわからず、窓の外を流れるネオンの光を眺めていると「佐々原さん、仕事は慣れた?」と尋ねられた。
沈黙が途切れ、ホッとする。
「どうでしょう……毎日まだいっぱいいっぱいです」
だが、亮介さんの男らしいやや鋭い瞳が私を見つめるから、忘れていた胸の鼓動が高鳴り始める。
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