午後1時、いつもの場所で-2

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准君の口調は自信がなさげ。 私の様子を窺っているからに違いない。 「寿々が嫌なら無理にとは言わないけど、それに完全っていうのも僕がこだわりすぎているところだから……」 准君が頭を掻く。“しまった”というような顔だ。 「私、“寿退社”憧れだったんです」 准君の手の力が弱まった。 「将来のことはわからないけれど、今の私には嬉しい言葉です」 「……無理してない?」 「准君こそ……。収入が一つになっちゃってもいいんですか?」 「それは構わないけれど……本当に?」 コクりと頷く。 「ありがとう」 准君がホッとしたように笑った。 しかし私が“寿退社”できたのは、それから二年先。詳しくはあとひと月後。 赤坂さんは結婚式を挙げてすぐ妊娠が発覚し、“おめでた退社”をした。 その後では、とてもじゃないが辞められない。無責任だ。 先に辞める気満々だった私は、ガクリと気が抜けた。 しかし、辞めずにいてよかったかもしれない。 赤坂さんと私、そして支店長まで身内になることを知った山口さんの態度が一変し、彼女とは嘘のように働きやすくなった。 今の支店でも少しずつ職員らやお客様との信用を築けていけるようになっている。 確実にあの時、辞めずに頑張った成果だ。
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