午後1時、いつもの場所で-2

12/23
前へ
/23ページ
次へ
「助けたって……?」 准君が不審そうに眉間を曇らせた。 「寿々音さんがデートに誘われて困ってたから助けたんですよ」 「……そうなの?」 准君の視線が私に向けられる。 あまり知られたくなかった。 だって彼にやきもちをやかせたくない。 「ちょいイケメンに“お茶でもどうですか?”っ誘われてたんで俺の彼女って言って追っ払いましたから」 心で“ちょっと益田君”と責め、彼の口を閉ざしてしまいたくなった。 「それは……複雑だな」 准君の眉間がさらに不機嫌に曇る。 「いやいや感謝してくださいよ。助けたんですから。ねぇ寿々音さん?」 同意を求められても困る。 私は無言で身体を准君の少し後ろに隠す。 益田君は“ははっ”と笑い「まぁいいです」と言うと「俺行きますね。またね、寿々音さん」と、手を大きく振って去っていった。 益田君は手紙の件があってからひと月ほど、私たちの前に顔を出さなかった。 しかし、彼は少しずつ支店を訪れるようになり今では遭遇すると話しかけてくるほど。 准君にもそうらしく、なかなか気が大きい子なのかもしれない。 益田君はnaturaに時々行くらしく、沙映子から耳にする情報だと、今は実家を継ぐ気でいるらしい。 naturaを辞めてからバイトもせず大学生活を満喫していたようなので、これからが彼の頑張りどころだろう。 准君は小さくため息を吐いた。 「彼じゃなくて、僕が助けたかったよ……」 「……准君」 「誘われたのはお客さん?」 准君の瞳に心配と嫉妬の色が加わる。 小さく頷きつつ「心配しないで、軽い感じだったから……」と両手を小刻みに振るが准君の表情は和まない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加