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「准君、ありがとう」
沙映子が側を離れると彼の両手を両手で掴んだ。
カウンター席なので身体は斜め向きと変な体勢になるが、嬉しさを我慢できない。
初めて会話したこの場所で、プロポーズしてくれたことが嬉しい。
海とか夜景の綺麗なレストランとか雑誌に特集されているような女性の憧れといわれる場所より、私にとってはこの店がなにより嬉しく感じる。
だって、思い出のある場所だもの……。
准君はそれをわかって、きっと言ってくれたのだろう。
私は心を“好き”でいっぱいにして、繋がる手に力を込めた。
今夜の飲み物代は沙映子持ち。
“申し訳ない”と言う彼だったけれど、“結婚祝いにしては安すぎるくらいなんだから”という沙映子の言葉に甘え、私たちは店を出た。
店の中から手はずっと繋がったまま。
離れたくない。
向かう先は彼の家。
通り慣れた道なのだが、浮かれているため足元がふわふわと軽い。
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