第二ボタンと

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ガラッと、美術室の扉が開いた。 「やっぱり、ここか」 後ろを振り向かなくても分かる。学だ。 「お前、式出なかっただろ?」 学が近づいてくる。いつも通りの振りをしてきたけれども、卒業式にはどうしても出られなかった。最後の抵抗だった。 「なあ、お前に渡したい物あるんだけど?」 零れた涙を学にバレないように手で拭い、椅子に座ったまま振り返った。すると、学の学ランの第二ボタンが取れていることに気づいた。旭は青ざめて、息を飲んだ。 「…っ、ボタン…あげたの…?」 「ん?…ああ、これな。お前にやろうと思って、取っといたんだよ。お前、欲しいとか言ってただろ?」 卒業証書の筒を左手に移し、学はズボンのポケットから金色に光るボタンを取り出した。そういえば、中学の卒業式の前に、冗談半分で言ったことがあったと思い出す。そんな前のことを覚えていてくれたことが嬉しかった。 けど、本当に欲しいモノはそんなものじゃない。 「旭。手、出せ」 でも、せめて、学の一部でももらえたら、サヨナラを言えるだろうか。  そっと出された手のひらに、第二ボタンを置かれる。開きたくなくて、ぎゅっと手を握りしめると、カチッと何か固い物がボタンに当たる音がした。 「…?」 そっと開く。そこには、思いもしなかった物があった。 「……これ…?」 「新しい家の鍵だよ」 ボタンの横には、銀色に光る小さな鍵があった。 「今は、一人暮らし用だから狭いけどさ。好きに遊びに来いよ。それと、来年は、もっと広い部屋にしようぜ?」 学の言っていることがすぐには理解出来ず、旭はただその鍵を見つめていた。すると、ぐいっと開けた学ランから覗くワイシャツの胸ぐらを掴まれた。学の唇が、旭の唇を軽く塞いだ。 「…離れて寂しいって思うのは、お前だけだって思うなよ?」 はじめての学からのキスに、旭は驚いて、目を見開いた。 「…っ、がっくん…」 ようやく相手の言わんとしていることが分かって、ガバッと学をきつく抱きしめた。 「…大好きっっ!」 旭は大粒の涙を零した。 これは、嬉し涙だ。 「……知ってるよ、バカ」 end
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