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「卒業おめでとうございます!」
「おめでとう!!」
「ありがとう!」
遠くから沢山の人の声が聞こえる。
薄桃色の桜が咲き乱れ、卒業という門出を迎えた生徒達を祝っていた。その光景を、4階の美術室の窓から、高橋旭(たかはし あさひ)は見つめていた。
「おめでとう…、ね」
ポツリと呟き深い溜息を吐くと、長くなった茶色の前髪が、耳からはらりと落ちた。
今日は高校の卒業式だ。
しかし、旭は卒業しない。なぜなら、まだ2年生だからだ。卒業を祝う側だった。だが、祝う気など微塵もない旭は、卒業式をすっぽかして部室に居た。窓辺に丸椅子を置き、憂鬱な面持ちで祝いのシーンをぼんやり眺める。
(あの中に、『がっくん』がいるのか)
そう思うと、垂れた目尻からうっすらと涙が滲む。
これは嬉し涙じゃない。
寂しくて、辛くて、悲しくて、ピンク色に彩られた風景とは真逆の気持ちだった。
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