第二ボタンと

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学と同じ学ランを着た時、そして、学のいる校舎へ入れた時、旭は本当に嬉しかった。 『入学おめでとう、旭。今日からまたよろしくな?』 一重で切れ長の瞳が、柔らかく弧を描き、旭を祝った。 肩を抱かれた。体重をかけられる。久しぶりに感じる、筋肉のついたしなやかな肢体がとても心地よかった。フワリと香る少し汗混じりの相手の匂いに、胸が高鳴った。 子どもっぽさが抜けた精悍な顔立ちが、旭を覗き見た。中学と同じツンツンと立った短い髪型なのに、大人に近づいた相手の顔が格好良くて―――そして、少し切なかった。 自分の知らない1年を垣間見た気がしたのだ。 旭は堪らない気持ちになった。 学に気持ちを伝えるつもりはなかった。 どんなに旭が純粋に、真摯に恋い焦がれても、学と気持ちが通じ合えると楽観的に思えるほど、もう子どもでもなかった。けれど、積もり積もって、自分の細胞の一部になってしまったような恋情をコントロールできるほど、まだ大人でもなかった。 あれ程一緒に過ごしたいと願っていたにも関わらず、旭は学に対して笑顔を見せられなくなってしまった。少し引き攣った笑みと、視線の合わせられない戸惑った瞳で、学に接するようになった。 同じ部活に入るのも気が引けて、空手部には入部しなかった。その代わり、人数の少ない、活動も消極的な美術部に入った。 極力、学と会わないように過ごした。 気持ちの整理をつけたかった。 けれど、簡単には出来なかった。整理など、つけられるはずはなかった。 そうして、夏休みを目前に、10年続けていた空手道場も辞めた。学との繋がりを、絶ちたかった。
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