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夏休みも中盤に差し掛かった時期、旭は無駄に時間を過ごしていた。
何もする気が起きなかった。
学を追いかけて入った高校のため、何も目標がなかった。友達さえ、作る気力がなかった。同じ中学の友達が数人居て、そのグループに入ってはいたが、積極的に遊びたいとも思えなかった。
モノトーンに彩られた部屋のベッドの上で、昼間から旭はボンヤリと天井を眺めていた。
夏の日差しが、キラキラと天井に映って揺れている。
湿り気のない夏の空気が、開けっ放しにした窓から入ってきて、少し青臭い匂いがした。鼻孔をくすぐるそれに連れだって、思い出が蘇る。
いつもならこの時期は、学の道場に入り浸っていた。
稽古をして、休憩時間に一緒に近くのコンビニへ行く。男らしい見た目とは違い甘党の学は、いつも苺練乳のかき氷を買っていた。
少し照れくさそうに店員へ出す学を、可愛いと旭は思った。そんな学を見たい気持ちで、本当はカフェオレ味のような少し苦めが好きになってきたことを隠して、旭も同じ苺練乳のかき氷を買っていた。そして、道場まですぐなのに、二人とも待てなくて、コンビニの目の前にある公園のベンチに座って買ってきたアイスを食べる。学と他愛ない話をして笑いながら食べるソレは、とても甘くて美味しかった。
旭は目を閉じる。
どんなに目を逸らそうとしても、小さなきっかけで学との時間を思い出してしまう。このままどうしたらいいのか。旭は分からなくなっていた。
不意に、チャイムが鳴る音がした。
母親が出るだろうと動かずにいたが、誰も出る気配がない。そういえば、自分は夏休みだが、母親はパートで、宅配便が来るからと頼まれていたことを思い出した。面倒くさいと感じながらも1階に降り、リビングから印鑑を取る。寝間着にしている中学のジャージのまま、ろくに相手も確認せず、旭は扉を開けた。
開けた瞬間、旭は固まった。
予想もしなかった―――けれど、先程まで自分が思い出していた人物が目の前に居たからだ。
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