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「っ、し、身長は大きくなったし!」
学の笑顔が見ていられなくて、旭は視線を逸らしながら、思わず子どものような言い返しをした。
「ああ、お前急に伸びたもんな?今、何センチ」
「179…」
「げ、ほぼ180じゃん。去年までは俺とほとんど一緒だったのにな」
「じゃあ、がっくんはまだ174なの?」
「もう175になったっつーの」
ハハハと大きな声を上げて学は笑って、旭を軽く小突いた。以前と変わらないやり取りに、旭も少しだけ口元を緩めてしまった。すると、学が安心したように息を吐いた。
「なんだ、お前、一応元気なんだな」
思わぬ言葉に、旭は目を丸くした。
「お前さ、なんか悩んでんのかと思って。部活も空手部に来ないし、道場も辞めちまうし」
再び、学の手が旭の頭に置かれる。今度は、ポンポンと優しく、柔らかく撫でられた。
「まあ、何かあればさ、話聞くくらいは出来るし。あんま一人で溜め込むなよ?お前、意外と繊細だし」
旭を思いやる気持ちが、じんわりと言葉と手から伝わる。自分を気にかけてくれていることが嬉しくて、旭の目頭が熱くなった。それと同時に、相手へ劣情を持っている自分がひどく汚らしく思え、そんな自分の気持ちに気づかない相手へ自分勝手な怒りを覚えた。
「え…?旭…?」
ポタッと雫がフローリングに落ちた。汗ではなく、それは旭の涙だった。自分の意思に反して流れた涙に、旭は驚いて慌てて目を擦る。しかし、ボタボタと溢れて止まらない。学も突然の旭の涙に面食らって、呆然としていた。
「っ、ごめ…っ」
「…旭、お前、やっぱりなんかあんのか?」
普段はキリッと上へ向いている眉をハの字に下げて、学が心配そうに旭を見やる。必然と上目遣いになるその表情に、ゾクリと旭の劣情を刺激される。劣情と嫌悪感と怒りと、ごちゃ混ぜになった感情が、プツリと旭のギリギリで保っていた糸を切った。
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