好きになった方の負け

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「それともいっそマンションを買う?」 「え!」 目を丸くした私に准君が「あ、笑った」と瞳を細めた。 笑ってはない。驚いただけ。 「……准君。冗談?」 「冗談じゃないよ。 若いとローンも組みやすいし、今なら金利も安いし、これから家族も増えるだろうから広い方がいいよね。 それに、借家より持ち家の方が落ち着かないかな?」 「そうかもしれないけれど……」 唐突な話だ。 「一人、KOKA工務店に勤めてる友人がいるんだ。別にそこで買わなくてもいいんだけど……今、電話して見せてもらえるなら見せてもらう?」 「……男の人?」 「そうだよ。大学の頃の友人で、ほら柿栖(かきす)って、結婚式にも来てたんだけど」 男性でホッとした。 KOKA工務店はマンションをいくつも持つ大手の会社。 ただ、私は彼の友人をそれほど覚えていない。 結婚式は働いていた頃だったから、準備に追われており当日式を無事に挙げられた安堵と、彼と結婚できたことへの喜びの二つが胸を大きく占めており、彼の友人を覚えるどころではなかった。 「……結婚式は男の人、准君しか見てない」 「……」 彼が照れたのがわかった。 何か言って……恥ずかしくなる。 彼の腕をギュッと掴むと彼は「やっぱりマンションはまたにしようかな」と言った。
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