好きになった方の負け

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密かに安堵したものの、胸のモヤモヤは消えない。 明らかに下心のある彼女が気になる。 既婚者だってわかっていて、恋をする女性はいる。 それはつい先日、naturaに行った時に、沙映子と話したことだった。 沙映子がママになったことで、あまり店に入れなくなった代わりにアルバイトの女子大生を最近雇ったらしいのだが、その女子大生が長岡さんにちょくちょく好きアピールをしかけてくるらしい。 そのことで、沙映子も長岡さんも頭を悩ませているという話を聞いたばかり。 既婚者を好きになってどうしたいのだろう。 幸せになれるはずがない。 私には女子大生の気持ちも、今すぐ側にいる彼女の気持ちもわからない。 それでも私はモヤモヤする思いに堪え、キッチンを一通り見たあと、准君の気にするポイントである浴室に足を伸ばした。 「どうでしょう?広くありませんか?」と、自信満々に見せる彼女に、准君は「たしかに広めですね。これなら二人でも浸かれます」と答えた。 「えぇ、仲良くお二人で浸かることもできるくらい横幅が広めなんですよ」 彼女はそう言うと、浴室に足を踏み入れ、空の浴槽に屈んでみせた。 “そこまでするの?”と思ってすぐ、驚くことに「旦那様、お試しに入られてみられませんか?」と誘ったのだ。 ありえない。 なんて失礼なの……。 私はたまらず准君の腕を強く引いた。 「ねぇ准君」 「うん」 准君が私を優しく見つめる。 「……土鍋今から買いに行きたい」 もしかすると彼には彼女の行為はただの営業に見えているかもしれないけれど、私はこの不動産会社で契約するのは嫌だと思った。 「ダメ?」
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