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こんなわがままな私、知らない。
自分でも驚きの言動だった。
「もちろんいいよ」
「……」
准君が私の腰を抱く。
私を優先してくれたことがこんなに嬉しいなんて……。
普段の彼のスタイルがそうなのだが、今それをひしひしと感じた。
胸に彼が大好きな気持ちが広がる。
もし、准君が彼女の誘いに乗っていたら、私は泣いていたに違いない。
「そういうことで申し訳ありません。僕らはここで失礼します」
准君の声がワントーン下がった。
「え!」
驚くのが不思議。
彼女は自分が失礼なことをしたと気がついていないのだろうか。
「あの、まだもう一ついい物件が……!」
彼女が立ち上がる時の慌てぶりが激しく、まるで滑りそう。
「いえ、もう大丈夫です。他の不動産屋で探します」
「え……」
「行こうか、寿々」
准君がそう言って身体を私ごと後ろに向けた時、後ろで“ドシン”と鈍い音がした。
彼女が転げたのだ。
慌てて追いかけてこようとしたのが、明らか。
私は“ふぅ”と息を吐き、准君から一度離れ「大丈夫ですか?」と屈んだ。
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