好きになった方の負け-2

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「この辺りを営業していて僕たちの家があるのを思い出して寄ってみたんだって」 「あ、そうなんだ……」と納得した私は、柿栖さんに「……あがられます?」と声をかけた。 二人きりの生活なので、部屋もそこまで汚れず急な来客に困ることはない。 “たしかいただきもののクッキーがあった”と思い出しつつ、柿栖さんを見つめた。 准君も「あがる?」と乗ったので、柿栖さんが「少しだけ」と部屋にあがった。 沙映子や里奈、馬渕さんと私の友人は来たことがあるが、准君の友人が家に来るのは初めて。 少し緊張する。 リビングに柿栖さんを通すと、ラグに准君のニットが広がり落ちているのが目に入り、焦る。 先ほど、彼が無造作に脱ぎ捨てたものだ。 「……准君」 彼の腕を引き、視線でニットの存在を教える。 准君は何も言わず、ニットを拾いダイニングチェアに掛けた。 バレていないだろうか。胸がほんの少しどぎつく。 「意外に広いんだ」 工務店勤めのためだろう、気になるよう。 部屋をぐるりと見渡すので、掃除は行き届いているか気になってくるほどだ。 「まぁ二人にはちょうどいいけど、これから家族も増えるだろうからって、今日新居を探しに出掛けたところだったんだ」 私はキッチンへ移動し、お茶の準備を始めた。 「マジ?それなら俺に声をかけてくれよ」 「それも彼女にさっき話したところだった」 「じゃあめちゃくちゃいいタイミングだったってわけだ」 「まぁ、そうだね」 いいタイミングだけど、そうでない。 彼の心の中が読める。
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