好きになった方の負け-2

6/23

139人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
准君はわかりにくいようでわかりやすい。 眼鏡の奥の瞳を覗くと、彼の喜怒哀楽が見える。 「どの辺りに考えてるの?准の職場に通いやすい場所?」 「まぁ、それもあるけど、ファミリー向けの治安のいい場所がいいかな。もちろん手が届く範囲で」 お茶を淹れた私は、二人の前に「どうぞ」と湯飲みを置いた。 柿栖さんは「ありがとうございます」と爽やかに笑う。 いかにも営業マンの笑顔に私もぎこちなく笑い返す。 「寿々も座ったら?」 准君が私の手首を引っ張った。 「あ、うん」 彼の友人の前で手を捕まれ、少し戸惑った。 恥ずかしくて。 それでも准君のすぐ隣に腰を下ろすと、彼は手を離した。 「准、本当に結婚したんだな」 笑いもせず納得した様子で柿栖さんは言った。 「式に来ただろ?」 「おぅ。でもなんか今の方が現実って気がする」 紺野さんも言っていたが、そんなに彼は冷めた人間だったのだろうか。 私は熱い彼しか知らないから、重ならない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加