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「現実って……」
准君の苦笑を側で見つめ、私もぎこちなく笑った。
あとで聞いてみてもいいだろうか。
彼の昔話を……。
昔のことを掘り返してもいいことはないと思ったばかりなのに、気になってしかたがない。
しばらく彼をからかった後、柿栖さんの興味は私に移る。
「奥さんはもう働かないんですか?」
柿栖さんは営業マンだ。
頭の中で、どんな家を提供しようか考えているに違いない。
「今のところは……」
彼の希望をしばらくは通したいと思っている。家族が増えてお金がいるようになるときっと変わるだろうから、せめてそれまで。
「なるほど、とりあえずは主婦業に専念されるのですね。まぁ、元銀行員なら、一般的に銀行事務の評価は高いので比較的簡単に転職できますしね」
たしかに銀行ほど煩雑な事務処理が要求される仕事はあまりないようなので転職には有利だとは聞く。
しかし、それは若いから、という気もする。
私が歳をとった時、どうなるかはわからない。
柿栖さんは少しの間黙ると「今、うちが作ってるマンションがあるんだ。二人にいいかもしれない」とやはり家話を持ちかけた。
准君と私はそれを真剣に聞き始める。
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