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暖かく心地よい風が吹き付ける、春。
とある総合病院の中庭に植えられた、シンボルマークの大木には、道行く人々を魅了する、満開の桜が咲いていた。
そしてその桜の木の下────少年がひとり、木の幹に寄りかかり本を読んでいた。
少年は楽しそうにくるくると表情を変える。ときおり笑い声を上げたり、首を傾げたり────本に夢中になっているようだ。
するとそこへ、ロングスカートを履いた女性が駆け足でやってきた。
「透ちゃんっ! あなたまたここにいたの?」
少年は本を閉じると、女性に向かって笑いかけた。
「ごめん、ママ」
「もう、勝手にいなくならないでね。
ママ、今、心愛ちゃんの病気で手がかかりっぱなしなんだから、透ちゃんぐらいはいい子にしててちょうだい、ね?」
少年は女性の言うことにウンウンと素直に頷く。
「っ、とりあえず、心愛ちゃんの病室に一緒に戻りましょう? ねっ」
「はーいっ」
少年は元気よく答える。そして女性に連れられ、少年は病院の建物の中へと戻っていった────
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