朧月に、うたう

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「大丈夫?具合、悪い?」 「いえ、何でもないです………」    若干感じの悪い受け応えになってしまった気がするけれど、気付けば軽い熱射病のような目眩を覚え、自分がまともに言葉を発したかどうかすら自信がなくなってしまった。  そんな私に、彼はリュックからおもむろに未開封のペットボトル入りの水を取り出し蓋を開けると、私に飲んで、と少しぶっきら棒に押し付けた。    言われた通りにペットボトルに口を付けると自分が思いのほか水分を欲していたことに驚いてしまう。  そうして三分の一ほどを一気に飲んだ私を、彼は少しの間観察したあと軽症だと判断したのか、ふ、と微かに笑い、自転車に跨り、お礼も聞かずに走っていってしまった。  もしかしたらあの人はオリエンテーションの実行委員か何かなんだろうか。だからあんな風に私のような人を見つけたら、放って置けなかった?  私は貰ったペットボトルの水を太陽に翳し、きらきらと零れる光の反射を木陰の土の上に写して集合時間までを過ごした。ゆっくりと休めた身体はまた軽くなり、もう目眩は起こらなくなっていた。     
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