一話 嫌よ嫌よも好きのうち、なわけがない!

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一話 嫌よ嫌よも好きのうち、なわけがない!

「僕は君のことが嫌いです」 不意に口をついて出た言葉で、一気に室温が五度くらい下がったような気がした。 僕を見下ろしていた男は、普段の自信に満ち溢れた表情とは打って変わって、驚いたように目を見開いている。彼と壁に挟まれていた僕は、そこでようやく自分がとんでもない失態を犯してしまったことに気が付いたのだ。 目の前にいるのは、出席番号の関係で何かと近くの席になりがちな花宮理久( はなみやりく)という人だった。僕は春川だから、必然的に彼の斜め後ろ座ることになる。だから何だという話になるかもしれないが、それは僕にとって人生を左右する重大な事柄だった。 花宮理久という男は、高校時代に地元から全国に名を轟かせた筋金入りの不良。そして僕は、不良という人種がこの世で一番大嫌いだった。 高校時代と比べて多少の落ち着きは持ち合わせているらしいが、大学に入学してからも、彼は非常に目立つ人だった。聞きたくなくても彼の名前や噂は日常的に耳にしてきた。しかもその内容は、どこをとってもあまり良いものとは言えない。とにもかくにも、僕は間違っても彼に関わらないようにと細心の注意を払って一年間を過ごしてきたのだった。 彼との接点なんて同じ大学で、便宜上の同じクラスであることしかなかったのだけれど――無事大学二年生に進級した時に、衝撃の事実を知ってしまった。
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