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 脩の勤めている会社は、男性向けアプリ開発を中心に企業展開している。一人暮らしのノウハウからファッション、男飯の提案な多岐に渡っていた。  大学を卒業後、男性の多い職場でなおかつアプリ制作に関わりたかった脩は、この会社に入社を決めたのだった。  脩は理由がわからないが、女性に接触されるのが苦手だ。会話だけなら問題ないが、触れられてしまうと全身を覆うような嫌悪感と目眩に襲われてしまう。きっと、前世のなにかが影響しているのだと脩は考えていた。兄や父に聞こうにも、母が狂ったように喚き散らす恐怖が湧き上がり、誰にも聞くことが出来ずにいた。  その点、この会社は男性向けのアプリ開発ということもあって、男性の人数が圧倒的に多い。  女性は事務と総務部に留まっていて、そこまで接点も多くない。その点は安心していたのだが……。  脩は本当は、内勤で開発部を希望していた。それなのにも関わらず、営業部に配属となり、ここで三年目を迎えてしまったのだ。営業先にもちろん女性がいる。それでも、一時の接点だけで済んでいるのでなんとかやってこれた。  それに置かれた状況で頑張るつもりではいた。それでも「顔が綺麗だから営業向き」という一歩間違えればコンプライアンスに引っかかりそうな理由には、今でも納得がいかない。  向いているのか分からなかったが、脩はそれなりに提携や広告等の契約に漕ぎ着け、成績も順調に伸ばしている。  別に仕事が嫌いなわけじゃない。ただ、飲み会が多いことと、女性と接しなければいけないことが悩みだった。  秋良がパソコンでデーターを打ち込んでいるのを横目に、脩は内心で溜息を吐く。 「田端くんって、めちゃくちゃ物覚え良いじゃん。良かったね、世良先輩っ」  先程と同様にひょっこりと顔を出した草刈が、ニヤリと唇の端を釣り上げると、悪戯っぽい視線を脩に向けてくる。 「うるさい」 「うわー、こわーい。世良先輩っ、笑顔笑顔」  眉間に皺を寄せる脩に、草刈は逃げるように頭を引っ込める。まったくもって騒々しいと、脩は思わずため息をこぼす。 「面白い方ですね」  秋良の方は動じている様子もなく、画面から視線を外し、脩に笑顔を向けてくる。 「同期なんだけど、ただのうるさいやつだよ」  再度、脩はため息を吐き出すと、秋良の指導に気持ちを切り替えた。
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