輪廻

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「覚えてろよー」  渾身の力で叫んで僕は彼らに背を向けて駆け出す。自慢の黒マントはその大半が焼失し、用意してきた巨大ロボットは鉄くずになって周囲に散らばっている。僕の体と精神はいつものように疲労の限界だ。 「覚えてろよ」  なぜそんな言葉を毎度敗北するたびに言わねばならないのかはわからない。そういう伝統なのだ。声質もトーンもリズムも厳しく決められていて、習得するには長い時間がかかった。僕の父も、祖父も、その祖父の祖父の祖父も同じ悩みを抱えながらその伝統を守ってきたらしい。「覚えてろ」覚えておいて欲しいのは何だろう。今回の僕の敗北だろうか。だとしたら彼らは僕の今まで全部の敗北と、僕の父の、祖父の、それ以前の全ての敗北を覚えておく事を求められているのだろうか。もしかしたら彼らは律儀に全て覚えているかも知れない。彼らにはそう思わせる完璧さを感じる。色とりどりの戦闘スーツにはシワひとつなく、スーツの色も、能力も、性格も見事に補完しあっている彼らの関係はまさに完璧と形容するにふさわしい。  むしろ敗北を覚えておかねばならないのは、僕の方じゃないだろうか。そっちの方こそ敗北を記憶し、糧にし、きちんと強くならねばならない、と彼らは僕をあざ笑うだろうか。
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