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静かに声を掛けるとびくりと肩を跳ね上げて男の人は顔を上げた。
「な、なんでしょう」
その強ばった声に、こちらにまで緊張していることが伝わってくる。
そんなに緊張されるとこっちまで緊張してくるんだけど……。
「その……ごめんなさい」
私は謝った。
「え?」
男の人は面食らったような声を出した。
なんで謝られたのか分からないようで、怪訝な顔で私を見た。
私は、猫がコタツからミカンとお菓子を出してきた話をした。
「……それで……その、さっきまで洋画を観てたんですけど……うっかり『彼氏がいたら……』なんて呟いてしまって……」
そこまで言ってしまってからハッとする。
何気にこれ恥ずかしい発言じゃない?
気付いて、顔が上気するのが分かった。
イヤッ、穴があったら入りたいっ。
掘ってでも入りたいっ。
あぁでもここフローリングだ!
「……えっと、じゃあ、僕は猫にコタツから出されたってことですか?」
『彼氏』の単語はスルーしたみたいで、男の人はコタツと見つめてそう言った。
「はい……そう、なり、ます」
「…………。なら、コタツに入ったら戻れますかね?」
「さ、さぁ……」
「ものは試しで……。失礼します」
言って、男の人はコタツに潜り込んだ。
そして。
右から左へ突き抜けた。
「……………………」
「……………………」
シュールな絵面を代償に、コタツに入っても戻れないことが分かった。
男の人は沈黙したままコタツから出て、元の位置に座り直した。
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