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現場に着くと、野次馬の人だかりができていて大騒ぎだった。騒然とする現場に、消防や警察も到着していて、野次馬の牽制にや消火活動に必死の形相を見せていた。
私と小塚さんは野次馬に混じって燃えるアパートを見つめるしか無かった。
どうしていいか分からずに、火が完全に消し止められるまで、ずっと見ていた。
「これから……どうするんですか?」
彼の住んでいたアパートは燃えてしまった。
「…………」
燃え落ちてしまった現場を見つめたまま、小塚さんは答えを返さなかった。
横から覗ったその顔は、表情が抜け落ちてしまっている。
私はそれ以上、彼に言葉を掛けることが出来なかった。
……私に出来ることはなんだろう。
彼の横顔を見ながら考えた。
考えて、近くにいた警察の人から紙とペンを借りて、私の連絡先と伝言を書いた。それを、燃えたアパートを呆然と見つめる彼のポケットにそっと忍ばせた。
私に出来る事なんてこれくらいだけれど。
それでも、頼ってくれたら。
私は借りたペンを返しながら、警察の人に彼がここの住人であることを告げてその場を去った。
それからしばらく経ってから。
「……メモ、見ました」
彼から電話が来た。
「それで……その、部屋を探してるんですが……」
なかなか見つからないんです、と小塚さんは言った。
部屋探しに手こずっているようだ。
「ウチのアパート、空いてますよ。早速、大家さんに打診してみますね」
それから数日としないうちに、小塚さんは私と同じアパ―トの住人になった。
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