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「まさか私も、あの日偶然出会った貴方が、今度自分が社長に就任する会社の社員だなんて思いませんでした」
出会ったときは、知らなかったようだ。
あの後、会社を案内された時、偶然社内で私のことを見かけたのだと言う。
それから、社長賞を取った上司のことも秘書に確認し、同僚にも話を聞いて裏を取った上で、退職の道を勧めたのだとか。
「こんな偶然……」
あるのか、と呟こうとしたところで、彼は私の言葉を遮ってこう言った。
「あの日、別れ際に話したことを覚えていますか?」
あの日の事を忘れる訳がない。
夜桜の綺麗な景色と、あの日話した内容と、彼がくれた優しい言葉の数々と。
今でも鮮明に思い出せる。
別れ際に話したこと。それはつまり、
「貴方の名前を、教えてください」
彼は爽やかな笑顔で、尋ねてきた。
名前なんて、この会社の社員だと分かった時点で、もう知っているはずだ。
それでも尋ねてきたのはきっと…。
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