サクラウタ

16/17
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「まさか私も、あの日偶然出会った貴方が、今度自分が社長に就任する会社の社員だなんて思いませんでした」 出会ったときは、知らなかったようだ。 あの後、会社を案内された時、偶然社内で私のことを見かけたのだと言う。 それから、社長賞を取った上司のことも秘書に確認し、同僚にも話を聞いて裏を取った上で、退職の道を勧めたのだとか。 「こんな偶然……」 あるのか、と呟こうとしたところで、彼は私の言葉を遮ってこう言った。 「あの日、別れ際に話したことを覚えていますか?」 あの日の事を忘れる訳がない。 夜桜の綺麗な景色と、あの日話した内容と、彼がくれた優しい言葉の数々と。 今でも鮮明に思い出せる。 別れ際に話したこと。それはつまり、 「貴方の名前を、教えてください」 彼は爽やかな笑顔で、尋ねてきた。 名前なんて、この会社の社員だと分かった時点で、もう知っているはずだ。 それでも尋ねてきたのはきっと…。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!