さよならソメイヨシノ

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 私は今、少し遠回りをして満開の桜並木を歩いている。  満開の桜並木を、彼と一緒に眺めている。  そして私は、  去り往くオトコに1つ、花の名前を教える。  毎年同じ場所で、同じ花を咲かせる花の名を、1つ教える。  彼は、  別れた瞬間に彼は、  私の事なんて忘れてしまうかも知れないけれど。  だけど―――  それは、私に最後に残された細やかな抵抗。  思い出は消えても  彼の記憶は、  今、私と、  この桜を眺めた事実は消えないから。  ここで毎年桜が咲く度、彼が私と見た事を思い出しますように。  ここでなくても桜を見る度に、私と見たことが頭をよぎりますように。  新しい彼女と見ても、私の事を思い出してしまいますように。  変えられない未来なのならば、せめて。  爪痕を、君に。 ”さよならシュンくん”  私は誰にも聞こえない言葉を、心の中で呟いた。  その時びゅうと強い川風が吹いて、桜の花びらが散った。  見て。  こんなに胸が痛いのに  こんなに、綺麗。  誰にも言えない気持ちは、桜の花びらだけが知っている。  桜の花びらだけが知っている。  そのいたいけなピンク色に、人間の気持ちを乗せて。
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