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「 月夜です 来ましたよ おじいちゃん 」
高級ホテルの一室のような豪華な病室のベッドの上に枯れたように祖父鳥迫秀一が横たわっていた。
先週来た時にあった医療機器や体に繋げられたチューブやらがあまり見受けられない。この歳で持ち直すとはなかなか考えにくい、やはりもうそう長くはないのだろうか。
「 月夜 来たか まあ座りなさい 」
私はベッド脇に用意されてあった椅子に腰掛ける。
「 車田さんが突然迎えに来るからビックリしたじゃないですか 元気そうで安心しました 」
「 今日はお前と話しがしたくてな 車田に我が儘を言って連れて来てもらった 」
「 我が儘じゃないでしょ 私はおじいちゃんの孫なんだから いつでも呼んで下さい 」
「 そうか 」
「 はい 」
「 で どうだ 」
「 どうだと言われても あいも変わらずですよ 月夜ですから おじいちゃん 」
「 そうか なら良かった 」
良かったと言われても困ってしまう、どうせなら叱咤された方がまだ気は楽だ。
「 月夜にはすまんと思っている 」
「 どうしたんです 」
「 仕事にかまけてたった一人の孫の手を取ることすらしなかった いや 仕事に逃げていたのかもしれん 」
私の両親は私が1歳の時に揃って亡くなっている、交通事故だったらしい、当然 顔すら覚えていない。3歳の時に亡くなった祖母月奈のことは薄っすらと記憶にある、とても優しい人だったような気がする。それからの私には血の繋がった家族は祖父だけなのだ。その祖父がもうすぐ ……
「 そんなことないですよ おじいちゃんは私の誇りなんですから 」
「 月夜にそう言ってもらえるのなら わしの人生も存外無駄では無かったのかもしれんな 」
「 どうしたんです 変ですよ 」
「 実はな 月夜に伝えねばならぬことがある 悩んだのだ 悩んだのだがな 」
ぞわりと何かが頸を駈け上がる。
「 やはりわし1人で墓穴に背負って逝くには重すぎるのだ 」
全身の産毛が逆立ち毛穴が収縮する。
「 聞いてくれるか 月夜 わしの罪を 」
聞きたくなんかないのに。
「 わしは酉狩清次 特級戦犯だ 」
今の今まで身を隠していたおばけがにゅるりと顔をだす。
さあ始まりを始めよう。
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