第 3話 ある独白

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「 奥深い山の中腹にある旧き石の(ほこら)の中にそのものは(おわ)した 小さきけものじゃった (いたち)(かわうそ)のようにも見える 後ろ脚で立ち上がりこちらを見遣るその(まなこ)は愛らしくさえ思たものじゃ 契約は同行した神職の者が執り行った どのような契約が交わされたのかはわからんが ただ ”敵を討ち滅ぼす力となれ ” とな 我らは用意してあった葛籠(つづら)にそのものを納め急ぎ山を降ったのじゃ 次の任務は葛籠を敵国に送り届けることだった そうせねば契約は果たされぬからのう 我々は広島へと進路をとる 広島到着の直前に司令部より一報が入ったんじゃ ”敵に察知されし恐れあり” 我々は踵を返し進路を九州の小倉へ そして長崎へと変更する そして敵の新型兵器が投下された 広島の地へ そして長崎の地へと 」  広島と長崎 この国の国民でこの名を知らぬ者はいないだろう。 「 情報が漏れていたんじゃ ハナっから勝てるわけないのだ 我々は敵の手のひらの上でただただ踊り狂っていただけなのだ そして敵の新型兵器の威力を目の当たりにして為す術を完全に失った その後 敗戦を迎えることとなる 死んで逝った者たちの願いも 生き残った者たちの思いも すべてが無意味なものへと成り下がった それが今のこの国の生い立ちだ 」  死者の願いと生者の思い。敗戦とはそれすらも許してはくれないのだろうか。     
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