第 4話 百目奇譚

2/6
前へ
/425ページ
次へ
 こんな時、自身の矮小さがつくづく嫌になる。葬儀は私のせいで、終始しっちゃかめっちゃかで失笑物だったはずだ。途中、いくつか記憶が抜け落ちているパートがありホラー感を倍増させる。  当然、故人を偲ぶなんて余裕があるはずもなく、火葬場に着いて、ようやくおじいちゃんが居なくなった事を実感して涙が止まらなくなった。  それから2週間ほどは鳥迫の屋敷で車田監視のもと軟禁状態となる。当たり前だ、トリオイ薬品会長の相続者なのだ、やらねばならぬ手続きや届け出が山のようにある。トリオイ薬品に関する権利はすべて放棄する趣旨はあらかじめ伝えてあったのだがそれでも訳がわからない。どうせ説明聞いてもわかんないんだから片っ端から署名捺印していけばいいように思うのだが、そんなズルを車田は決して許さない。酸欠状態の金魚鉢の金魚の気持ちが初めてわかった。  今後も鳥迫家の財産管理を含めたその他諸々は引き続き車田が取り仕切ってくれると言う事なので一安心である。これでいいのか私、と思わない事もないのだけれど、出来ないのだから仕方ない。  屋敷から解放されると、時は既に春近し3月となっていた。 「 ねぇ ツクヨちゃん 今度デートしよ 」  今、私にとんでもないかるぐちを叩いている長めのパーマヘアのイケメン風男子は海乃大洋(うみのたいよう)、カメラマンである。     
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加