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今度は突如壁に押し付けられて、背骨が痛いくらいに乱暴な動きだ。まさに凶暴というに相違ない激しさだった。
突然の奇行に現状を把握する余裕もなく、気付けば腕をも取り上げられていて、紫月は更に硬直してしまった。
「訊いてんだよ、帝斗の野郎が好きなんだろ? こんなことしてえんだろ? 今、あそこで客にべったりされてるアイツに焦れてモヤモヤしてんだろうが」
焔の言葉はある意味当たっていると言えなくもなく、そのせいでか、返答の言葉も咄嗟には浮かんで来ない――。
全力で跳ね返すように紫月は目の前に覆い被さった胸板に膝打ちを食らわせると、一瞬ひるんだ焔の頬を間髪入れずに張り倒した。
「ッ……痛ってーな……! バカ、本気で殴る奴があるかって……クソっ……マジ痛えー」
少々咳き込みながら焔は自身の唇を指で拭い、
「はっ、切れちまったじゃねえか……信じらんねぇ……」
苦々しい言葉と共に舌打ちを隠さない。だがしかし、同時に不適な薄ら笑いを浮かべてもいた。
不快極まりないのはこちらの方だ。
「信じらんねえのはてめえだろ? 何血迷ってやがる! そこどけよっ! 俺りゃーまだ仕事あんだからよっ!」
再び焔の肩をド突きながら、そろそろ閉店間際の客席に戻ろうとした――その時だ。
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