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「私に対して身構えちゃうのも分かりますけど……お線香上げさせてもらえたらな――って」
宮野はこの話を出せば俺が絶対に断らないと知っていたから、余裕のある態度をしていたのか。悔しいけれど、確かにその読みは正しい。それを言われたら、俺は無条件でこいつを家に招き入れざるをえないのだ。
「……線香上げたら、さっさと帰るって約束するか?」
「もちろんですとも!」
宮野はパッっと明るい表情になると、胸の前でパタパタと手を叩いた。
校庭を抜けた敷地内の一番端、プール脇に俺の家は建っている。用務員宿舎といっても、そう大きいものではない。古い平屋の木造建築だ。見た目は普通の民家と変わらない。
季節の花を植えた花壇を通り過ぎ、すりガラスの玄関を開ける。
「あれから何年になるんですか?」
仏間に入り線香を上げると、思い出したように宮野が訪ねてきた。
「……七年」
「そうですか……」
その声はどこかしんみりとしていて、さっきまでの憎たらしさが嘘のようだ。だから俺も、空気に飲まれてつい本音をこぼしてしまう。
「長かったような気もするし、あっと言う間だったような気もする。でも……」
「でも?」
「時間が経ったからって、気持ちの整理がつくってもんじゃねぇな」
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