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――しまった! と思った瞬間にはもう遅かった。宮野はすっかりと瞳に好奇心を宿し、一冊のノートに興味を示している。
「あれれ? なんです? このカラフルなノート。小豆澤さんには不釣り合い――」
「それに触るなっ!」
無遠慮にノートに手を伸ばそうとした宮野に対し、俺は反射的に怒鳴ってしまった。
「……すみません」
完全に委縮した顔で、宮野は声を震わせている。十代の少女が大の大人に怒鳴られたのだ、恐怖を覚えるのも無理はない。
「いや、俺の方こそ悪かった。大声出して。これは、その……弟の……光希の形見だから」
俺にはおよそ不釣り合いなパステルピンクのノートを手に取り、しっかりと胸に抱いた。このどうしようもなくファンシーなノートは、この学園に入学した時に光希が買ってきたものだ。表紙にドーナツやソフトクリームが描かれたどう見ても少女向けの代物だったが、あいつは時々そういう意味の分からないものを買ってくる奴だった。
にこにこと笑いながら、「兄貴! 交換日記しようぜ!」と言ってきたのを、昨日のことのように覚えている。
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