青い春に、芽吹いた怪異。

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 俺と光希は幼い頃に両親を交通事故で亡くしていた。それからは親戚や施設を転々としていたが、俺が高校を卒業して就職をし、光希が空高学園へ入学したのを機に二人で暮らすようになったのだ。それは俺の強い希望でもあった。  当時俺は夜勤のある工場で働いていたため、「入れ違いの生活だと、兄貴が寂しがるだろうから」と強引に光希が交換日記制度を導入した。といっても、だいたいは光希がその日の出来事を書き連ねて、俺がそれに『よかったな』とか『楽しみだな』などと一言書き添えていただけなのだが。それでも、そこに書かれていた学園での日々は、青春そのものだった。光希の姿を見ていると、自分が望んでも手に入れられなかったものを追体験しているような気分に浸れた。光希が幸せであること、それがすなわち俺自身の幸福だったのだ。 「あ、そうそう! 実は今日小豆澤さんを探していたのはもう一つ理由がありまして」  宮野の声に、俺は過去から現在に意識を戻す。 「なんだ?」  これ以上長居して欲しくない――という俺の気持ちを察したのか、宮野は困惑気味に喋り出した――が、それはいまいち要領を得ない話だった。 「小豆澤さんは、この空高学園の七不思議ってご存知ですか?」 「……いや? けど、あれだろ? 夜中に音楽室のベートーヴェンの肖像画の目が動くとか、理科室の人体模型が喋るとか、そういう子供染みた噂話だろ? いつの時代にもそーゆー怪談はあるもんだよな」     
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